光と闇
十二月二十九日の朝、照明家のアイカワマサアキさんが亡くなった。
午前11時ごろ、指輪ホテル「Candies」で一緒だった友人のダンサーから泣きながら電話があった。
奇しくも次のCandiesのための打ち合わせをしに出かける矢先のことだった。
この日はやけに予定が詰まりまくっていた。
その知らせが事実だとはっきりわかってからもまるきり実感がなくて呆然としたまま全ての予定をさくさくとこなした。
合間に何人かの友人に電話で知らせた。
知らせながらも実感がまるでなくて、一粒の涙も湧いて来ない。
ただただ呆然としていた。
驚いちゃうよねえ、って笑いすらした。
あまりに悲し過ぎると寧ろ笑っちゃうのかもしれない。
相川さん、そんなにぶらっといなくなっちゃって、こっちじゃみんな大騒ぎですよ。
稽古場で、暗転の合図にパチンと指を鳴らす仕草
大きな熊のような体を椅子に沈めてうとうとしている様子
時折送られてくる、激情を込めた詩のようなメール
最近号泣したのはいつ?って何度も何度も聞いてくる、酔っ払いのおっさんな顔
ロンドンのアパートメントホテルの居間で大きな体で緻密な図面を引いている情景
「おじさんの愚痴、聞いてよー」と言われて飲みに出掛けた異国の町
しょんべん横丁でたった一回きり、二人でジンギスカンを食べたあの時
ソロの舞台で韓国に行こう、アビニヨンに行こうって話したのに
にやり、と企むような笑顔で送ってくる不適な目配せ
ロンドンのカフェで聞いた「女はみんなピザが好き」なんてとぼけた名言
穏やかな水面の下に激しいマグマを秘めた、お茶目でセクシーで大きな大きな大きな人
横浜、ウェールズ、ロンドン、グダンスク、ポートランド、大阪、森下、日暮里、札幌、博多
たくさん一緒に旅をした
両国でのソロ公演で、思い切って、本当に勇気を振り絞って照明をお願いした。
もっともっと話したかった
次はもっと、と思っていたのに、今年の三月の舞台、相川さんともう一度やりたいんです、って予算もあまりないのにお願いして「面白そうだね」って引き受けてくれたのにもう、叶わない。
私にとって相川さんは指輪ホテル、「Candies」のラスト、マジソンダンスの終盤で下手から眩しいほどに差してくる緑色の光。
厳しさと優しさと絶望と希望に充ちた、緑色の光とそこにうつる闇。
最近号泣したのはいつ?って聞かれたら「今だよ今!」って答えるよね、って共演者と話したけど、まだ号泣も出来てない。
涙はずっと流れてるけど。
「俺には娘が多すぎるよ」って得意がってたみたいだけど、こんなに娘たちに嘆かれて、さぞやご満悦でしょう、お父さん。
明日、告別式に参ります。
でもお別れは言えないかな。
またね、ってまた会いましょう、って言います。
あっちでもこっちでも失礼。
あっちにもこっちにも書きたいくらい、
どこにおさめてよいのやら、分からないのよ…
アイカワさん。パパ。
アイカワさんにきれいな光で照らしてもらったこと、
ちょっと遠くになっていた記憶が、この写真でばっと、きた。
写真アップありがとう。私もパパの秘蔵写真を、探して送るからね。
かっこいーかっこいーと、言い合おう。
Comment by れん — 2011年1月4日 @ 11:16 PM