よるべない音楽家によせて
ACCのメルマガに載せて頂いたものを、こちらにも。
村田です。
今回ソロ公演としては初めて舞台上にあらわれる音楽を生演奏にて上演します。
私にとっては大いなる冒険です。
可愛らしくも冷静な面構えと確実なテクニックの裏にツチノコのような情念がとぐろを巻いているツンデレピアノの職魔人、きくちまゆこ。
楽器から生え出てきたような肢体から地球外生物的な色気と殺気を放つ、ボーダレスサックス艶奏者、るっぱ。
ピアノとサックスとマイムで描くトライアングル身体激情です。
数年前、青い部屋というライブハウスに出演したことをきっかけにここ数年、音楽の方との共演の機会に恵まれました。
録音されたものとは違う、生の力強さとままならなさに初めは戸惑いもありましたが、次第にその可能性に惹き込まれてゆきました。
それはある種、自分を、自分の世界を壊されるような不安と興奮だったかもしれません。
同じ作品が、演奏者によってまた曲目によってその表情を変えてゆく。
奏者のからだから楽器を通してあらわれる音が私のからだに容赦なくぶつかってくる。
生のからだから生まれる音は決して私に寄り添ってはくれない。
決して意のままにならず時に離れ、時に近づき共鳴し、刺すように射るように包んだかと思えば突き飛ばす。
それは日々どうしようもなく起こる出会いや別れやわかりあえなさや幸せや悲しみや喜びや寂しさのままならなさにも似ているかもしれない。
と、今日劇場近くのドトールで冷えきった珈琲を飲み干しながら思ったのでした。
そのままならないひとつひとつの瞬間に向き合い、受け入れ反発し交わり合い、匍匐前進で這ってゆきたい。
きくちまゆこが真っ黒なグランドピアノの前にちんまりと座って鍵盤に指を落とす。
るっぱのサックスが闇を裂く。
よるべない女たちの幕が開く。
激情でお待ちしております。切に。