旅の顛末。(北米ツアーその壱)

どう書き始めようか迷って、これは最後に書こうと思ってたことだけど、いいやまだるっこしい先に書いちゃえ。

前回のツアーの報告を、書く書くといいながら書けなかったのには理由があった。
やっている時はそれでも倒れることも泣くことも怒鳴ることもなく(最後の最後でちょっち泣いたけど)、大変だとかきついだとか感じる余裕もなくひたすら走っていたのだけども、終わってみると疲れや諸々が澱のように心と体に溜まっていてなかなか消化することが出来なかった。正直今回の北米ツアーに参加するのをためらう程に。
けども作品は好きだったし、「これで終わるのは嫌だな」という気持ちもあり、一応言いたいことは言ったしもう一回だけやってみるか、と北米ツアーへの参加を決めたのだった。

結果、行ってよかった。
勿論帰国後の疲れは相変わらずで私はここ数日ねむりっぱなしだったのだけど、それは真っ当に旅公演ひとつ終えた後の疲れというか。
前回は三カ所だったせいもあるかもしれないけれど何より前回は何もかもが初めてだったからな。
作品としても本当に生まれたての状態で初めての海外公演、しかも三都市を回るツアーに行って、やっとよちよち歩きし始めた、そんな感じだった八ヶ月前。
骨が太くなった、と思う。
肉を剥がして骨を確かめ、もう一度解釈(この言葉いまいちしっくりしないけど、まあそういうことなんだろう)し直してからだに乗せ、明かりに当たり、音を聴いた、そんな感じがする。
なんだばかやろう奥が深いなちくしょー。来年の東京大阪が楽しみだよ。

ま、そんな訳で、旅の話を始めましょう。

9/5、午後の便で成田を発った一行がポートランドに着いたのは同日夕方。
途中デンバーでのトランジット時に三人が乗り遅れるというアクシデントがあったものの、とりあえず夜には無事全員集合したのでした。
ここでの公演は、
PICA(PORTLAND INSUTITUTE FOR CONTEMPORARY ART)主催のT:BA(THE TIME-BASED ART FESTIVAL)という大きなフェスティバルへのエントリー。
一番の目玉はローリーアンダーソンだそうで、この名を知らなかったれんちゃんは坂田ゆきこに?100℃くらいの軽蔑のまなざしをくらっていた。でもさー年代なんじゃないかしらん。大体私は何でこの人を知っているんだろう。
名前を聞くとヘッドセットらしきものを装着して、キーボード(シンセ?)を弾くベリーショートなこの人の姿が目に浮かぶけどそれ以外は何にも知らない。その位な知り方。

ポートランドの街はのんびりしていて、でもフェスティバルの高揚感が柔らかくあって、少しうきうきした雰囲気に包まれている、
ような気がしたが普段を知らないので分からない。
空が真っ青で高くて日差しが強くて、夜は空気がきーんと冷えて気持ちがいい。
そんで、人がみんな親切。
昔、小学生の頃、両親に連れられて一ヶ月程西海岸を貧乏旅行したことがあって、その時「アメリカ人てなんて親切で愛想がよいのだ」と驚いた覚えがあって、あれは家族連れだったからなのかなーとも思っていたけど、そうではなかった。
20年以上経って私が大人になってもやっぱり西海岸の人(って大きすぎる括りだが)は変わらず親切で愛想よしなのであった。

着いた翌日から稽古は始まった。
概ね出発直前にやった通しの通りとはいえ、現場に入ってからの変更点やまだ詰め切れていない部分が多々ある。それを一個一個丁寧に当たって行く。
時差ぼけの頭と体が辛くなり始めるのは午後二時頃。ポートランドは時差が確か11時間位だったから日本の真夜中に当たる。
この時間から退出の八時くらいまでずっと暴力的な力で額を押して来る睡眠欲とひたすら戦いつつ稽古する訳でこれはやっぱ辛い。

着いて二日目。前日よりも更に押し出しの強くなった時差ぼけに負けそうになりつつ稽古をこなし、通し前のミーティングを朦朧とした頭で終えたその時。
カンパニーマネージャー佐藤さんが「はい、それじゃー岩原さん(音楽担当)お願いします。」と言った途端に大音量で鳴り響くゴキゲンなミュージック。
最初「なんじゃそらー」と言って笑っていたのだけどよくよく聴くとどうやらそれはハッピーバースデーソング(スカバージョン。多分。)。
そして客入れ口からローソクの刺さった超カラフルなケーキを持ってカルベリさん(from PICA)登場。
私(9・7生)と衣装の真弓ちゃん(9・11生)へのハプニング、じゃなくってなんだっけ…
あ…サプライズ!サプライズだったのでした。

ケーキ1

見よ!この色合いを!

ケーキ2

食べ物にあるまじき色使いですが、味はなかなかいけます。

びっくりうれしい気持ちと、「通しの時間が押してる…」という申し訳ないよな気持ちが入り交じる。
思えば去年も指輪の面子と誕生日を過ごしたのだったなあ。丁度一年前の誕生日の日にまんまと事件を起こしてくれた卯月妙子の元気な姿を感慨深い思いで見遣る。ちょいと時差ぼけでぼんやりだけど、元気でケーキを食べている。何よりだ。

ひとときの和みを終えて、さてここへ来て初めての通し。
力を入れすぎぬよう、確認しながら、進めて行く。そして中盤の山場から後半に差しかかったその時。

れんちゃんの肩が外れた。

私はその時彼女と二人のシーンで、急にうずくまった彼女に慌てて駆け寄ったら肩が。肩の骨が。あらぬ方向に飛び出ているよ。

通しを中断して駆け寄るみんな。しかしどうすることもできない。
本人曰く、年に一度くらいの頻度で外れるのだと言う。自分で入れられる時もあるのだが、今は痛くて入れられない、とのこと。
とにかく何かその手のエキスパートを呼ばねばなるまい。
舞台監督のサムさんを呼び、「彼女の肩が外れました!誰か、何か、知りませんか!」と聞いてみる。「整体師」の英訳が分からないので「鍼灸師!鍼灸師!!」とか口走ったような気がする。
サムさんは「鍼灸師は知らないけど下の劇場で稽古してる人に心当たりがある。ちょっと待ってて」と言って駆け出して行った。
悶えるれんこさんを前にでくのぼーのよに立ち尽くす。こんな時は声をかけた方がいいのかかけぬ方がいいのか。
最初は何も手が出せない代わりにしきりに話しかけたりしてみたが、む、そっとしといた方がいいのか?痛いんだもんな、と思い不意に黙ってみたり。ああ肩の入れ方の一つも教わっておけばよかった(誰に?)などと無茶な後悔をし始めた頃、サムが助っ人を連れて戻って来た。

一同の期待に満ちた視線を一身に浴びて登場したその人は…

ひげもじゃのお顔にどっしりボディ、しかも上半身裸で腰には民族調な布をぺろっと巻いて…

「ターザンだ…」
一同の心に同じ言葉が浮かんだ。と思う。多分。

ちょっぴり恥ずかしそうなターザン。多分下の劇場で稽古中だったのだろうきっとそれは衣装なんだろう。
しかし一体どんな。どんな稽古?どんな芝居?踊り?何の役?

可笑しいような、頼もしいような、色々突っ込みたいような、それどころじゃないような。
そんな妙な雰囲気の中、れんちゃんの前に座るターザン。何か忘れたけど幾つか質問をして、
「じゃあどこか他のところを痛めていないかどうか診るよ?」と言ってれんちゃんの手を取り、軽く回したその瞬間。

「入った!!」

驚いたようなれんちゃんの声。

「入った!入りました!thankyou!thankyou very much!」
感激のあまり泣きながらターザンに抱きつくれんちゃん。抱きつかれながらびっくりしているターザン。感動の瞬間をカメラに収めるおやじさん(有末剛)。何だか拍手する私たち。

多分ターザンの手首の回し方が調度良くて、うまいこと嵌ったんだろう。れんちゃんに今後の諸注意を与えた後、照れくさそうにターザンは去った。

嬉しいサプライズにアクシデントなサプライズ、なんとも波瀾万丈な初日イブでございました。

そうそうれんちゃんのお陰で一つ英語を覚えました。
「Her shoulder is dislocated.」(彼女の肩が外れました)
使う日が来ないことを祈りつつ。

つづく。

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コメント

  1. 今回はスタッフブログが前回より簡潔だったけど、やはりいろんなことが起きてたんですね。一皮向けた「キャンディーズ」楽しみです。

    Comment by Kappa — 2006年10月11日 @ 10:48 PM

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